第107回 草の根組織における、評価のあり方を考える

「資金調達・評価部会」公開学習会のおしらせ(終了致しました)

【開催日時】
2020年12月14日(月)18時〜20時(17:55受付開始)
場所:ZOOM会議(Web会議サービス)にて開催

【開催趣旨】
今回は、若者と子どもを対象に活動するタイプの異なる2つの草の根型組織の代表者をお招きし、草の根組織が自らの目標を実現させるためにどのような組織運営をしているか、また草の根組織の活動の評価をどう考えたらよいかという点を中心にお話しいただきます。

近年、自治体等の業務を受託する非営利組織が増えたことにより、公的資金を受けた場合のアカウンタビリティが問われるようになっており、それを具体的に表現するための評価のあり方が議論されています。今年度より休眠預金等活用法に基づく助成が開始されましたが、そこでもどのような評価手法を用いるかが大きなテーマになっています。

しかし、草の根組織の中には、地域の助け合いやさまざまな有形・無形の贈与などを得て活動が成り立っている場合が多く、むしろそのことが地域のネットワークをつくりだす力にもなっていたり、日々の生活の見えない支えになっていたりしていると考えられます。単純に、投下した資金に対する結果を測定するような評価手法では、こうした価値を測ることはできません。

この分科会では、それぞれの組織の活動と資金(資源)調達について報告した後、各々が現場での経験をベースにした評価のあり方について問題提起していただきます。資金調達のアプローチの異なる組織の違い(委託事業中心の場合と助成金・ボランタリー中心の場合)や共通点などについて、議論を深められればと思っています。また、現在休眠預金等活用法に基づく助成で導入が求められている評価の動向や、委託事業における評価のあり方など、それぞれの組織での最新の検討事項についても報告していただく予定です。

【当日の動画(無料公開中)】

【コメント:原田 晃樹さん(立教大学コミュニティ福祉学部)】

近年、非営利組織が公的サービスの担い手としての期待が高まるにつれ、公的資金を受けた場合のアカウンタビリティが問われるようになっており、それを具体的に表現するための評価のあり方が議論されている。2019年度より休眠預金等活用法に基づく助成が開始されたが、そこでもアカウンタビリティを確保するためにどのような評価手法を用いるかが大きなテーマになっている。

そのような問題意識の下、今回は、若者と子どもを対象に活動するタイプの異なる2つの草の根型組織の代表者をお招きし、最初にそれぞれの組織の概要をお話いただいた後、草の根組織の活動の評価をどう考えたらよいかという点を中心に問題提起していただいた。

【2団体の概要】

第一報告者の一般社団法人全国食支援活動協力会は、もともと1970年代に世田谷区で始めたプレイパークづくりに端を発し、その後住民参加型の配食サービスを展開し、全国の高齢者による配食活動の全国ネットワーク組織として発展したものである。近年では子ども食堂の全国ネットワーク組織の事務局としても活動している。また、福祉事業については1996年に社会福祉法人ふきのとうの会を発足し、地域福祉全般のサービスを提供している。2019年度には、休眠預金等の新規企画支援事業の採択を受け、資金分配団体として地域で核となるネットワーク組織(「こども食堂サポート機能」)の立ち上げを支援するプログラムを展開している。

第二報告者の鈴木稜氏は、こおりやま子ども若者ネット、NPO法人アスイク、チャイルドラインこおりやまを主宰しており、引きこもりなどの若者支援の実践にとり組んでいる。こおりやま子ども若者ネットは、県内の関係17団体(他に個人5人)によるネットワーク組織を主宰するともに、全国若者支援のネットワークづくりにも奔走している。

【草の根団体の評価のあり方】

(全国食支援活動協力会の取組)

休眠預金等活用法に基づく助成では、領域ごとに採択受けた資金分配団体の企画したプランに沿って現場団体(実行団体)の公募がなされ、採択を受けた実行団体が資金分配団体から資金提供を受けることになっている。実行団体は資金分配団体と協議しながら活動の目標を設定し、目標を達成するために伴走的な支援を受ける。そして、最終的に資金分配団体と実行団体それぞれが社会的インパクト評価によって評価され、その成果を可視化することが求められている。

一般に、子ども食堂ではその性格上無償または低額で食事が提供されるため、事業性は低く、ボランティアや物資の差し入れなど、多様な支援の輪によって支えられている。資金分配団体としての全国食支援協力会の活動は、実行団体が地域で支援のネットワークを形成し、子ども食堂がそれを資源として継続的な滑動ができるようにすること、また、それぞれの実践を共有し、多世代の支え合いの場になることを目指している。報告では、こうした活動の中・長期のアウトカムと、それを達成するためのロジック・モデルの策定プロセスが紹介された。

ただし、資金分配団体としての中長期のアウトカムを展望するとき、「可視化された成果」にこだわりすぎると、子ども食堂の数や子どもの参加者数など数値で表現しやすい成果が強調されがちになる。子どもの貧困の背景には、家庭環境や育児に問題がある場合が少なくない。だとすれば、子ども一人一人が抱えるつらさや困難に向き合い、親子関係や子どもの対人関係なども視野に入れたサポートも必要になろう。子ども食堂は、多世代の居場所になることによって、子どもが発するSOSを地域で受け止める場となり、地域の多様な人たちと子どもとの相互関係を育む場にもなりうる。子ども食堂のこうした機能を重視すれば、アウトカムには多世代の居場所として機能しているか、互いに助け合う関係がつくられているか、子どもの自己肯定感や社会関係の豊富化につながっているのかといったプロセスの評価も必要であろう。社会的インパクト評価によってそうした質的な側面をどのように・どの程度評価できるのかはまだ未知数であるように思われた。

(鈴木氏の取組)

鈴木氏も、評価については同様の問題意識を指摘していた。むしろ、若者支援の活動は、子ども食堂の運営以上に厳しいものがある。「食べられない子ども」に対しては立場の違いを越えて誰もが支援しようというマインドになりやすいのに対し、引きこもり状態にある若者に対しては、「怠けている」と見られがちで、本人の意欲の問題に帰せられてしまうことも少なくない。このため、地域・社会からの支援も相対的に受けにくいように思われる。若者支援の活動は、事業としての採算性がとりにくいだけでなく、子ども食堂よりも地域のネットワークを通じた支援を展開しにくいという問題も抱えているようにみえた。

鈴木氏は、こうした問題に対し、そもそも公的な支援の仕組みが欠落していることを指摘している。彼らは複合的な問題を抱えているものの、障害者手帳を持っていない場合が多いために、制度の狭間に陥りがちである。引きこもりは長引く傾向にあり、中高年の引きこもりも社会問題化しているにも関わらず、抜本的な法制度上の対応はなされていない。鈴木氏によれば、近年の傾向は「相談窓口は増えるが支援メニューが増えない」状況にあるという

鈴木氏の取組は、こうした事情を背景として、都道府県や主要都市からの事業委託が主な収入源になっている。事業委託の場合は、自治体の政策や予算動向に応じて委託料や事業の実施の有無が変動しがちである。しかも、基本的に単年度事業で、入札による場合も少なくないため、事業が継続的に実施されにくい。そうした事業の枠組みでは、どうしても単年度で目にみえる成果が求められがちである(たとえば実業高校の進学率)。実際、地域若者サポートステーション事業が成果連動型の事業委託となったことで、就労者数と委託費が連動された際、就業率はあがったものの、就業者の7割が非正規職になってしまったという。短期で目にみえる成果を重視しすぎると、本人にとって真に必要な支援につながらないだけでなく、成果につながりやすい人に支援が偏るなどのモラルハザードも生じるかもしれない。

鈴木氏は、こうした問題に対し、若者支援に関わる関係者が一堂に会する協議会を組織し、縦割りになりがちな支援を地域で統合し、地域の当事者や支援現場の意見を踏まえた計画(指標や評価)づくりができないか試行しているという。そして、その際の評価手法として、トヨタ財団からの助成を受け、若者の態度変容などを測定可能な「ふりかえり評価」を構想している。年度中にまとまるとのことである。

【コメント】

2人の報告から草の根団体の評価に対して多くの示唆を得ることができた。

第一に、近年の非営利組織をめぐる評価は、提供された資金の成果を問うために導入されており、アカウンタビリティのツールとして機能することが主たる目的とされていることである。社会的インパクト評価は、アカウンタビリティと自己改善・学びの2つの目的があるとされるが、実際には資金提供者側からのイニシアティブで設定された成果指標の達成を優先せざるを得ない。いくら当事者によりそった丁寧な支援を行ったとしても、成果が上がらなければ契約は打ち切られてしまうからである。自己改善や学びとしての評価は、自分たちの失敗や問題点を率直に挙げ、関係者で共有することが求められるだろうが、アカウンタビリティとして機能する評価において、通常そうしたことは起こりにくい。むしろ、アカウンタビリティが強調されればされるほど、自分たちに不利な情報は隠すという動機が生まれるのではないだろうか。

第二に、ステークホルダーの参加による評価が重要な意味を持つということである。子ども食堂に来る子どもや引きこもりの若者の支援においては、参加数や就労実績数などの可視化された成果は、数ある成果の一つに過ぎない。一見成果に結びつかないようにみえても、長い時間かけて親との関係が改善されたり、本人の自己肯定感が高まることも、大きな成果である。当事者支援へのアプローチに正解はないかもしれないが、属人的で非定型的になりがちなスキルを言語化し、関係者の経験や学びを持ち寄ってバージョンアップを繰り返していくことで、地域での支援の力はより強いものになっていく。それが、自己改善・学びを重視した評価であろう。したがって、そうした評価が機能するには、当事者に関わるさまざまなステークホルダーが評価のプロセスに参加し、場合によっては当事者も関わるようなあり方が、もっと志向されてもよいように感じた。

第三に、社会的インパクト評価のような量的な測定手法に対する評価法はいまだ確立されていないのではないかということである。そもそも、社会的インパクト評価は、当該プログラムのアウトカムを測定する手法であるので、その実施主体の特性は基本的に考慮されない。草の根団体だろうが営利法人だろうが、資金提供者側が設定した成果が上がりさえすればよいのである。しかし、「当事者のための支援になっているか」という視点で成果を捉えてみれば、嫌がる子どもに無理強いしたり、首に縄をつけて就労させたりするようなことはしないであろう。結果だけに着目して当事者の利益を顧みないような評価を避けるには、上記の2つの視点、すなわち、評価が活動する人たちにとっての自己改善・学びとして機能すること、資金提供者の目線だけでなく、当事者に関わる多様なステークホルダーの視点が入っていることが重要である。特に、鈴木氏が取り組んでいるような地域の協議会組織を通じて評価のあり方を考えるというアイデアは、評価のあり方を考える上でも、また、縦割りになりがちな支援を当事者の立場から横断的に捉えるためにも重要な示唆を与えてくれるように思われる。

現在の社会的インパクト評価にそれが可能なのか、もっと議論が必要であるように感じた。なお、文中の内容の責任はすべて原田の責に帰する。


【登壇者】

■平野覚治氏

・一般社団法人全国食支援活動協力会専務理事・社会福祉法人ふきのとう代表

・生きることの基本である「食べること」を通じて子どもの居場所づくりが豊かに広がるよう、子どもの居場所づくりに取り組む幅広い関連団体と連携しながら運営をサポートする活動(子ども食堂サポートセンター)に取り組んでいる(https://kodomosyokudo.mow.jp/about

・2019年度より、休眠預金等活用法に基づく資金分配団体として、「こども食堂サポート機能設置事業」が指定活用団体である一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)より採択され、支援活動を行っている。

■鈴木稜氏

・2002年からNPO法人ビーンズふくしまで、不登校の子どもや孤立する若者の教育機会つくりや就労支援など展開。左記団体在任中、「ふくしまの子ども支援協議会」「チャイルドラインこおりやま」「福島高卒認定サポート協議会コーパス」等の立ち上げに参画。2016年より福島県冒険ひろば設置事業の第三者評価者を務める。2019年、ユースソーシャルワークみやぎ・ベネッセこども基金共同事業評価コーディネーター。

・現NPO法人アスイク常務理事・チャイルドラインこおりやま副理事長・NPO法人しんせい理事・一般社団法人若者協同実践全国フォーラム理事。2018年11月に、福島県の郡山にて、子ども・若者をテーマに活動している団体で構成するネットワーク組織「こおりやま子ども若者ネット」を設立し代表に就任。

■原田晃樹

・立教大学コミュニティ福祉学部教授

■小関隆志

・明治大学経営学部教授

【内容】

  • 開会(18時/開会挨拶・趣旨説明)
  • 報告Ⅰ(組織の活動概要と資金(資源)調達の実際)
  • 報告Ⅱ(評価の実際とそのあり方)
  • 質疑応答/コメント等