第115回研究会をオンラインにて開催いたしました。
タイトル:「非営利組織の特性を生かした入札は可能か?
―サポステ事業から考える政府・自治体の委託契約のあり方―」
日時:2022年3月14日(月) 18:00開始
場所:zoom配信 (参加無料)
報告者:静岡県立大学 津富宏さん
NPO法人さいたまユースサポートネット 青砥恭さん・小池豊さん
(運営委員:原田晃樹・小関隆志)
当日の感想文を、運営委員の小関隆志さんに書いていただきました。
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第115回研究会「非営利組織の特性を生かした入札は可能か?――サポステ事業から考える政府・自治体の委託契約のあり方」に参加して
2022年3月 明治大学経営学部 小関隆志
今回の研究会は、資金調達・評価部会の企画として、地域若者サポートステーション(通称サポステ)の委託契約をめぐる問題をテーマに取り上げました。
研究会を企画した趣旨は、サポステの委託契約が事業の質から価格重視に転換されたため、従来は地域に根ざしたNPOが民間営利企業に入札で負けるようになり、結果的に事業の質が低下しているという現状から、価格重視の入札の傾向を批判的に問い直すことにありました。
埼玉のサポステでは2021年3月の入札において、NPO法人さいたまユースサポートネットが入札で最高の技術点を得たにもかかわらず、価格面で企業に見劣りしたために、企業が落札したのです。
研究会においては、総合評価落札方式のテクニカルな問題点だけにとどまらず、ローカル・コモンズを重視した地域との連携のあり方、「社会への権利」の保障、社会的インパクト評価など、実に幅広い論点が示され、奥深い議論になりました。
私は質疑の時に、「行政(委託者側)とNPO(受託者側)、そして納税者の間で価値の共有ができているのか」といったコメントを申し上げましたが、価値の分断を乗り越えて共有を生み出す方法を考える必要があるのではないかと感じています。
行政からNPOないし営利企業への業務委託は、ペストフも提唱していた福祉多元主義や社会的連帯経済の価値観に基づく対等なパートナーシップもあれば、新自由主義のNPM論の価値観に基づくプリンシパル=エージェント関係もあり、そこに価値の分断があるように、私には感じられます。NPOが社会的連帯経済の基盤に立ち、他方で民間企業や行政機関が新自由主義の基盤に立って、表面上は同じ物差しで競争させられているのが、総合評価落札方式なのかもしれません。
ただ、そもそも行政の担当職員個人の価値観の問題というよりも、その背後にある有権者・納税者や民間企業を含めた世論全体が業務委託をどう認識しているかという問題でもあります。価格が安ければ別にそれでいいんじゃないの、就労という指標でちゃんと測定しているんだからそれで問題ないでしょ、といった認識が世論の主流であるとすれば、そうした認識を変えていくためのより効果的な説得が必要なのかもしれません。
さいたまユースサポートネットや、青少年就労支援ネットワーク静岡の活動に実際に関わっている地域の方々にとっては、NPOによる若者支援の意義や、地域社会にある“コモンズ”の存在を当然のように実感できているでしょう。しかし、それと全く関係ないところで生きている地域住民にとっては、ピンとこないかもしれません。より多くの人々に、価値を分かりやすく伝え、共感を得るにはどうすればよいのでしょうか。
私は「社会的インパクト評価」という投資家目線のコトバがいまひとつなじめずにいます。何でも数値に置き換えて示さないと伝わらないのでしょうか。インパクト評価の意義も否定はしませんが、生のストーリーのほうが、よほど想像力をかきたてて共感を呼ぶこともあるように思います。
さいたまユースサポートネットが、朝日新聞や読売新聞にたびたび記事が載っているのを見つけました。これだけの高いマスコミ露出度はすごいことだと感心しました。記事は、地域社会との連携による若者支援の意義を、臨場感をもって伝えてくれています。
ただ、「ふうん、良い話だね」というだけではなくて、こうしたNPOによる活動が持続可能であるためには、行政とNPO、地域社会の関係がどうあるべきなのか、短期的なサービスの叩き売り的な委託契約で良いのか、という方向に世論が向いていけば、行政の担当職員の意識にも変化が及んでいくような気がします。
今回取り上げた事例は、行政とNPOと地域社会との協働を考えるうえで、貴重な教訓を私たちに示してくれていると思います。
以上
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なお、この研究会は、科研費基盤研究B「社会的連帯経済の「連帯」を紡ぎ出すものは何か―コミュニティ開発の国際比較研究」(JSPS科研費JP18H00935、代表:藤井敦史)の調査研究報告の場として実施しました。