第104回 NPOのおカネの問題を考える

<報告テーマ(この研究会は終了いたしました)>
「NPOのおカネの問題を考える」

<開催趣旨>
社会的企業、特に事業系のNPOやワーカーズの財務・資金調達が現在どのような状況に置かれていて、課題を抱えているのか、またいかなる政策や支援を必要としているのか、都内の2団体を事例として報告していただき、東京CPBの坪井さんには、NPOバンク(主にNPOに融資事業を行う金融NPO)の視点からコメントをいただきます。

  • 特定非営利活動法人エコメッセは、都内で14店舗のチャリティーショップを経営しており、また特定非営利活動法人コンチェルティーノは障がい者の働く場として、清掃事業を中心に展開しています。
  • 資金面で課題や困難を抱えている社会的企業は少なからず存在しているのではないかと推測されます。ビジネスモデルが確立し公的に制度化された事業ではない場合や、認知度が低く一般の金融機関からの理解が得られにくい場合、ワーカーズのように組織のガバナンスが特殊である場合など、要因はいくつか考えられますが、実態はまだ充分わかっていません。個々の団体によって、状況は千差万別かと思いますが、他方で共通する課題が見えてくるかもしれません。
  • 今回、2団体の方に事例報告をしていただきますが、参加者の皆さんからも、「うちの団体ではこんな対処をしている」「こういう課題に直面している」「資金調達についてはこう考えるべきではないか」など、活発な情報・意見交換を行えればと願っております。

<当日の動画(無料公開中)>

第104回社会的企業研究会(無料公開中)

<感想文・コメント:小関隆志(明治大学経営学部)>    今回は「NPOのおカネの問題を考える」と題して研究会を企画しました。NPOやワーカーズの財務・資金調達が現在どのような状況に置かれていて、課題を抱えているのかを考えようと、都内の2団体に事例としてご報告いただきました。

環境まちづくりNPOエコメッセは、東京都内に14店舗のチャリティーショップを展開する団体です。ご報告いただいたエコメッセ理事長の大嶽貴恵さんは、店舗があることはすなわち資源(資産)であり強みだと指摘します。店舗には環境に関心がある人が集まる場であり、買い物することで環境活動に参加する場でもあります。しかし、店舗を開くにも、維持するにも、多額の費用がかかってしまいます。特にコロナ禍によって一時的に臨時休業を余儀なくされ、家賃などの固定費が経営を圧迫しました。強みであったはずの店舗が、財政面では固定費を生み出す弱みにもなり得ることが露呈しました。

エコメッセは、さいわい東京CPBからの融資で資金繰りの危機を乗り切れましたが、今後は固定費を減らすための無店舗事業や、新規事業の展開などを考えているとのことです。

コンチェルティーノは「障がいのある人ともに働く喜びを創り出す社会的事業所」で、清掃事業から始まって室内の手作業、チラシなどのポスティング、そして昨年には念願のカフェを開設するなど、障がい者の働く場を次々と拡大してきました。働くことにより精神的に安定し、対価を得ることで生活が安定し、仲間意識が芽生え、そして健康になれると、理事長の淺川悦子さんは話しています。

カフェ事業を立ち上げて半年後にコロナ禍が襲い、カフェを臨時休業せざるを得なくなりました。収入が減少する一方で固定費が出ていくという苦しい時期は過ぎましたが、今後はいざという時のために貯蓄を増やすこと、借入先を増やすことが課題だとのことです。コンチェルティーノは東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合共済会から資金を借りることができています。

東京CPBや共済会からの資金調達は金融における協同の姿だと言えますが、ただそうした協同はごく一部でしか実現していません。今後、そうした協同を増やし、社会的連帯経済のネットワークの中に金融機能を位置づけるための方策を考えていきたいと思います。

大嶽さん・淺川さんのご報告の後、東京CPB理事・事務局長の坪井眞里さんから、NPOバンクの紹介と、報告に対するコメントをいただきました。また、報告に対する熱心な質疑応答もありました。

当初は、NPOやワーカーズの財務や資金調達について、参加者からも経験談や意見・助言を出してもらって、意見交換したいと考えていましたが、時間の制約上、意見交換までは至りませんでした。

今回事例として紹介した2団体はいずれも生活クラブと関わりが深く、その点では「特殊な事例」だと見られなくもありません。NPOやワーカーズといってもその財務や資金調達の課題は事業分野や経営方針によって多様ですが、研究会の場で今後できるだけ多様な事例を蓄積することで引き出しが増え、参考になるのではないかと思います。

また、今回の研究会では議論できませんでしたが、NPOやワーカーズに対してどのような公的支援が必要なのか、望ましいのかも考えたいと思っています。韓国政府による社会的企業支援政策なども参考になるかもしれません。公的支援の提言や要求に向けては、NPOやワーカーズがどのような価値を社会に提供しているのかを分かりやすく示す必要がありますが、この資金調達&評価部会の次回研究会で事業評価をテーマに報告していただく予定ですので、次回の研究会に引き継ぎたいと思います。

NPOやワーカーズの資金調達は、正面から報告のテーマに据えられることが少ないのですが、話しにくいテーマでの報告とコメントを快く引き受けてくださった大嶽さん、淺川さん、坪井さん、本当に有難うございました!


報告者:

■はじめに
小関  隆志(こせき・たかし)
(社会的企業研究会運営委員/明治大学経営学部)

■第1報告
大嶽  貴恵(おおたけ・たかえ)さん
特定非営利活動法人エコメッセ理事長)

■第2報告
淺川  悦子(あさかわ・えつこ)さん
特定非営利活動法人コンチェルティーノ理事長)

■コメンテーター
坪井  眞里(つぼい・まり)
(社会的企業研究会運営委員/東京CPB理事・事務局長)

日時:2020年10月5日(月曜日)19時~21時00分

場所:ZOOM会議