【ご案内・若人の会(この研究会は終了いたしました)】
10月29日の社会的企業研究会では、社会的企業について実践的な研究をされている若手研究者の発表会(若人の会)を開催いたします。
今回は、ILOや社会変革推進財団(SIIF)での勤務経験から社会的連帯経済に関心を持ってきた戸田満さん、地域福祉・社会福祉学から社会的企業の実践的な調査研究をされている竹内友章さんにご登壇いただきます。
戸田さんからは、ILOや社会変革推進財団(SIIF)に関わってきた経緯や問題意識をお話していただいた上で、社会的連帯経済とも共通点がある「人間中心アプローチ」と「小さな循環アプローチ」とは何かというテーマについてお話していただきます。
竹内さんからは、これまでの北芝でのフィールドワークや就労支援に関する実践的な問題意識をお話していただいた上で、地域福祉・社会福祉研究から社会的企業をどのように位置づけることができるのかというテーマについてをお話していただきます。
また、NPOや社会的企業の実践にも明るい小池達也さん(東海若手起業塾)、社会学の観点から「障害者と共に働く」ことについて研究をされてきた伊藤綾香さん(政策基礎研究所・社会学博士)ら若手の方々からもコメントをいただき、皆さまとともに議論を深めて参ります。
<当日の動画(無料公開中)>
<第1報告へのコメント: 藤井恵理さん(ワーカーズコレクティブ ネットワークジャパン>
今回は、「若人の会」と銘打って、社会的企業について実践的な研究をされている若手研究者や実践者の発表会と意見交換を行いました。
はじめに竹内友章さんからは障害者就労問題をテーマに「働けない」とされていた障害者が「共に働く」実践をソーシャルワークの視点から考察し、実践の場としての「社会的企業」に注目し、事例を報告していただきました。
「地域福祉から社会的企業へのアプローチ」をテーマとした取組みの内容は、NPO法人とアパレルブランド(株)の共同による若者就労困難者への労働機会の創出の取組み。研究会を組織し学習や議論を重ねアクションプランが作られていく様子や取組みについての話。
これまで、業務を作ることの限界や障害者と健常者との関係性が課題となり義務意識以外に障害者雇用を推進する動機づけがない「消極的雇用」を、コミュニティワークの視点でどう変化させられるかという課題に取組む。
報告やその後の伊藤綾香さんのコメントの詳細はYouTubeを視ていただくこととして、ワーカーズ・コレクティブとして「働き方」や「ともに働く」の視点からコメントさせていただきます。
一般企業にとっての様々な取組み(戦略)の1つ「障害者雇用」の実践例としては、就労機会の創出という成果もあり、興味深く聴かせていただきました。研究会での多様な団体や人々との協働は見えてきましたが、現場での「協働」が報告から伺えず残念でした。こういった取り組みで一番大切なことは現場での「協働」をどう創り出していくかだと思います。当事者(障害者等就労困難者)の存在が感じられず残念でした。
「消極的雇用」をどう主体的で積極的な雇用に結びつけていくかが、この取組みの解決課題のように思いますが、いつしか生産性や経済性を軸とした議論(企業側の視点)の中に存在する一部と化していたのではと感じました。
「ともに働く」の現場を作り出し、実践していくためには、就労機会の創出だけではなく、「寄り添う」「理解する」「分け隔てない」という職場環境をみんなで協力して作り出すことが必要です。自分たちが作ったものが売れるか売れないかは、やりがいや自信につながりますので、モチベーションという意味では大事な要素ですが、その善し悪しが、自分たちのミッションの成功か否かを決めるものではありません。
「わっぱの会」を研究テーマとしてきた経験を持つ伊藤さんのコメントは的を得ていて、かつ辛辣だと思いました。彼女のコメントには「同床異夢的な取組みの帰結」「障害者雇用として、囲い込みから脱した取り組みと言えるのか?」「トレンドとしてSDGsに取り組むこと」「新しい価値」等、この取組みに対する課題とともに今後の継続と発展に期待も込められていたと思います。
私としても、結果としてアパレルブランドにとってだけの新しい価値(ブランディング)にならないこと、この取組みから社会的な価値を生み出すことを期待するとともに、改めて「社会的企業」とは何かを考えさせられる会でした。
<第2報告へのコメント: 原田晃樹さん(立教大学コミュニティ福祉学部)>
(戸田氏の経歴) 第2報告で登壇いただいた戸田満氏は、大学卒業後インドの翻訳会社に入社して現地社員としてキャリアを開始した後、イギリスに留学し、国際連合・国際労働機関(ILO)勤務を経て、2019年より社会的投資推進財団に入職し、現在に至るという異色の経歴の持ち主である。レジュメのタイトルである「人間中心アプローチ」もILOの政策にちなんだものである。
(投資家とは何か) 戸田氏は、投資家目線で世の中の動きを捉えることの重要性を指摘する。ここでいう投資家とは、デイトレードなどの短期売買を行う者ではなく、未上場・スタートアップなど、事業の立ち上げにも深くコミットする役割を担う。多くの日本人が一般的に認識する投資家像は前者であろう。私なりの理解では、前者の意味での投資家は投機家であり、短期的利得を求めて利益を奪い合う関係になるから社会全体にとってゼロサムになる。グローバル化した市場を相手にマネー・ゲームを繰り返すことで、巨万の富を得る一部の富裕層とその他大勢へと二極化を加速させ、富の偏在をもたらす存在といえるかもしれない。
しかし、戸田氏のいう真の投資家とは、
会社の将来性や新しく生み出される技術などに期待して資金を投じる役割を果たす存在である。モノになるかわからないリスクの高い事業や、誰もチャレンジしたことのないような事業にも積極的に投資することによって、高いリターンとともにリスクを負う。それでも、そのことで社会を変えるきっかけになったり、新しい価値が創造されたりすることを重視して未来へ投資する。ゆえに、長い目で見ればプラスサムになるということなのだろう。戸田氏によれば、財務諸表など企業の財務情報を投資家の視点で捉えてみることで、投資家が資金需要の川上の存在としていかに重要な位置を占めているかが見えてくるという。
(よい投資のための社会的インパクト評価) こうした投資家の存在を念頭に置けば、「大きなお金」(たとえばGPIFやその運用会社)にいかに働きかけるかが、社会を変革する近道になる。だからこそ、経済的なリターンだけでなく、社会的な価値がどの程度増進されるのかをアピールするツールが求められているのであり、それが社会的インパクト評価ということになるのだろう。
私自身、社会的インパクト評価については思うところはあるが、戸田氏の報告を聞いて、社会的インパクト評価は、その評価手法の新しさということよりも、心ある投資家に対し、社会をよりよい方向に向かわせる投資の必要性を訴える一つの材料としての意義はあるのだろうと理解した。つまり、投資家のノブレス・オブリージュのような自律的な責任意識(accountabilityではなくresponsibility)を醸成する装置として、社会的インパクト評価を位置づけようとしているのではないかと感じた。
(一言) 全体として非常に興味深く、示唆に富む内容であった。ただ、残念ながら時間の関係で戸田氏の考えを詳細に理解するまでには至らなかった。個人的には、価値観の大きく異なる(ように見える)ILOから現職へと転職した際の葛藤や意識の変化がどうであったかということに大きな関心がある。ILOの施策も社会的投資・社会的インパクト評価の取組も、よりよい社会を創造したいという目標は同じなのかもしれないが、少なくとも外側から見る限り、それに至るアプローチはかなり異なるように見える。立ち位置の異なる分野の最前線にそれぞれ身を投じてみたからこそ、見える景色があるのかもしれない。そこから何を学び、何に重きを置くようになったのか。機会があればそのあたりについてじっくり伺ってみたいと思った。
今後の更なる活躍を期待しています。
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日時:10月29日 18:00~20:00
場所:ZOOM会議(Web会議サービス)にて開催
第1報告者:
・竹内友章(たけうち・ともあき)さん
(東海大学健康学部)
【竹内さん当日発表資料はこちらから】
【報告題目(仮)】
『地域福祉としての社会的企業‐実践研究を通した課題からの学び』
コメンテーター:
・伊藤綾香(いとう・あやか)さん
(政策基礎研究所・社会学博士)
第2報告者:
・戸田満(とだ・みちる)さん
(社会変革推進財団(SIIF)・Office TODA(個人事業主))
【戸田さん当日発表資料はこちらから】
[SIIFについて] SIIFアニュアルレポート 2019
【報告題目(仮)】
『Small is Beautiful / Big is Responsible-人間中心の社会への考察』
コメンテーター:
・小池達也(こいけ・たつや)さん
(東海若手起業塾)
※司会は、当会の事務局である菰田レエ也が務めます。