ご案内(この研究会は終了いたしました):
101回目以降の社会的企業研究会では、現場の社会的企業の実践を一方では重視しながら、他方では新たな社会を構想していくための一つの道標、すなわち社会的連帯経済の可能性を皆さんと共に追求していきたいと思います。その新たな議論のきっかけを得るために、人材育成をテーマに研究会を企画しました。
社会的企業を増やすにはどうすればいいか、協同組合の認知度もまだまだ低い、ましてや社会的連帯経済については、ほとんど知られていないのが日本の現状です。具体的な人材育成をどのように行っていくか、スペインのサラゴサ大学「社会的経済研究所」の先駆的事例から学びます。
第1回は、この研究所を取材し、著書『ルポ つながりの経済を創る』で紹介しているジャーナリストの工藤律子さんから、研究所の概要と取り組みについて基本的なことをお聞きします。そして、第2回でさらに詳しく知りたい項目について意見交換します。
第2回はカルメン・マルクエジョ教授(サラゴサ大学)からお話しいただいた後、質疑応答や意見交換を行います。工藤さんに通訳をしていただきます。マルクエジェ教授は「社会的(連帯)経済を広めるために、教育が担う役割をとても大きいと考えています。まず、協働に価値を見出す人間を育てなければなりません。この研究所は、その役に立つことを目指しています」(『つながりの経済を創る』)という思いで、「社会的経済研究所」を2016年に大学内に設置されました。
※なお、この公開シンポジウムは、科学研究費(基盤B)「社会的連帯経済の「連帯」を紡ぎ出すものは何か―コミュニティ開発の国際比較研究―」(科研番号:18H00935 代表者:藤井敦史)による調査研究活動の一部として実施されるものである。
当日の動画(近日公開予定)
第一部
第二部
第二部:前半録画がされていない部分の補足資料有
感想・コメント(日本労働者協同組合連合会センター事業団・東京中央事業本部 北川 裕士さん)
人の暮らしと環境を中心においた経済=社会的連帯経済について、スペインのサラゴサ大学「社会的経済研究所」を著書『ルポーつながりの経済を創る』で紹介されているジャーナリストの工藤律子さんにご講演いただき、学びを深めた。
日本では、一般的にはまだまだ馴染みの薄い「社会的連帯経済」。「みんなで同じことを、同じペースで、同じようなやり方で」の学習システムが150年も変わらず、同質化・均質化した生徒が優秀とされ、それが出来ない子は、「問題児」扱いされる日本においては、競争原理、排除主義が当たり前に横行してしまっており、「協同」することを学ぶ機会が失われている。若い人たちが「社会的連帯経済」を知ることがあれば、助け合い、支え合いながら生きる、働くということができることを知り、希望に感じてもらえると強く思った。
工藤さんのお話では、スペインもかつて、競争を煽ってしまう教育が横行し、コミュニティが薄れ、格差が拡大するという課題に直面し、「社会的経済研究所」の立ち上げに至ったという。
日本においても同様の課題があるのではないか。そうした中で、協同の作業、互いに協力することに価値を置き、社会的連帯経済を広げていく教育の実践が始まっているという。
この取り組みは、サラゴサ大学のホームページに紹介され、世界に情報発信されている。その動画の中では、「経済を他人任せにしてきた、経済を自分たちの手で取り戻す」と語られている。
大学内では、毎週火曜日にカフェテリアで「社会的連帯経済」のプロジェクトのアイディアを出し合い、実践している。例えば、経済学部と工学部で、質と環境を意識した「エコな農業機具」を開発する取り組みが行われていた。また、社会的企業や団体に向けてアイディアを提案したり、インターンシップを行ったりしている。
また、自然と環境に優しいデザインを創造する協同組合が紹介されていた。
社会的連帯経済を形成していくには、民主的な対話を行い、様々な批判も受けとめ合いながら、「何のために、なぜやるのか」を問い、助け合い、共に実践していくことが必要なのだと強く感じた。
私自身も、2017年11月から、都内の協同組合と連携し「よいしごとステーション」をスタートさせている。非営利・協同セクターによる経済圏を創りたいという思いからであった。協同組合を広く知らせ、一緒に生活と地域に必要な仕事おこし、まちづくりをしていく仲間を増やしていきたい。そのために、この「よいしごとステーション」では、協同組合の事業の発信、就労支援、仕事おこし支援を行う。
働くことを通じ、人々がつながりを強くし、生命と暮らし、人間らしい生き方・働き方に価値を置く。それが、資本主義に対抗する経済圏、つまり、社会的連帯経済を形成していくことだと改めて感じさせられた。
そして今回のお話を伺い、地域の中で協同の実践が当たり前のものとなっていくには、教育の現場においてその学びの機会をつくることが重要であると感じた。デモクラティック(民主的)なシチズンシップ教育(市民としての必要な能力として、個人の権利と義務、他者や多様性の尊重などを育む教育)を意識した「共育」を、協同組合・社会的企業が中心となって、地域に仕掛けていきたい。
一般社団法人くらしサポートウィズさんが主催で、協同組合が連携し実践している、大学生を対象とした協同を学ぶ就労体験「つながりインターンシップ@協同」においても「協同」を学ぶ取り組みが始まっている。こうした取り組みを広げていくことで、若い人が社会的連帯経済の価値を学び深められるのではないかと希望を感じている。
この2つのプロジェクトの中で、社会的連帯経済を形成していくための実践を進めていきたいと改めて思った。
日時:2020年7月9日(木曜日)19:00~21:00(第1部)
2020年7月30日(木曜日)18:00~20:00(第2部)
場所:ZOOM会議(Web会議サービス)にて開催
報告テーマ:
「サラゴサ大学における社会的経済研究所の取り組み」
第1部:概要の紹介
工藤 律子さん(ジャーナリスト)
事前に研究所のサイトをご覧ください。https://labes-unizar.es
また、できれば『ルポ つながりの経済を創る』(岩波書店)のご一読をおすすめします。
第2部:取り組みの詳細と展望
カルメン・マルクエジョ教授(サラゴサ大学)
※当日通訳有り:工藤 律子さん