「障害者・健常者関係の模索から新しい働き方へ――「わっぱの会」の日常的な活動に着目して」
日時:2016年8月22日(月) 18:30~20:00
場所:東京都障害福祉会館2階・教室
報告者:伊藤 綾香さん(名古屋大学大学院環境学研究科 博士後期課程)
報告要旨(伊藤綾香)
障害者入所施設への批判から、障害者と健常者との共同生活を始め、40年以上にわたり活動を行なってきた「わっぱの会」について、その展開を主に健常者メンバーに着目して分析した。「わっぱの会」は、学生ボランティア活動で障害者入所施設を訪れた健常者が、そこに資本主義化する社会の問題を発見し、自分たちの生活から問題解決を試みたことから始まった。彼らは共同生活において生じる障害者との関係形成の困難をめぐり自分たち自身を問い直し、より良い関係のありようを模索するとともに、障害者の置かれた状況の改善などを社会に求めてきた。加えて、生活基盤の安定のために、共同生活での「一つの財布」をもとにした分配金制度など独自の制度を取り入れた事業づくりの工夫をした。この工夫が、関心のなかった人を受け入れ、さらには本人の意図にかかわらず運動の担い手にすることを可能とした。こうして「わっぱの会」は障害者や健常者が一緒に働くことのできる場所を作り維持し、より良い、新しい働き方を模索し続けている。
感想 コメント(一橋大学博士後期課程 菰田レエ也)
台風で開催も危ぶまれた8月22日、社会的企業研究会では、名古屋大学博士課程の伊藤綾香さんをお招きし、「障害者・健常者関係の模索から新しい働き方へ――「わっぱの会」の日常的な活動に着目して」と題して御報告いただきました。共同連はきょうされん系の授産施設や障害者の自立生活運動など他と比較すると、相対的に健常者と障害者双方の主体性を同時に両立・発揮する「共働」の形を目指している。むろん、この共働を実践することはそう簡単ではない。伊藤報告で興味深い指摘は
その実践を支えるものが「コンフリクト」であると指摘したことである。すなわち、事業所すずらんの労働現場では、一歩引いた支援関係ではなく、個々人が文句や怒りなど本音をぶつけあい、個別の関係形成の中で「共に働く」の意味が模索される。一見、信頼関係形成を瓦解するきっかけとなりそうなコンフリクトが、「共働」を構築する一つの回路になるという指摘は興味深い。同時に、この事例の場合、コンフリクトがネガティブな方向にいかないで、なぜ共働に向かうことができたのかという問いも出てくる。おそらく、似たような「共働」の実践現場において、(コンフリクトも含む)個々の関係構築から共働の発生・展開という説明図式が描きずらいケースも他方では多くあるように思われる。例えば、筆者が見たあるワーカーズ・コレクティブでは、結成当初の時期に、価値観の対立からメンバーが「淘汰されていった=やめていった」現象があったから、発展期に、団体の協働が「うまく」進みだした。コンフリクトによる関係の決裂が団体の共働を支える回路につながることがある一方で、団体内部でのコンフリクトの発展的解消が一つの共働を構築する回路になるのであれば、それ自体なぜうまくいったのかということは重要な問いになるだろう。 ここからは私見だが、この問いを考える「入り口」として、例えば、対面的な次元で個々のコンフリクトの解消を考えると、1対1の関係から思索をめぐらし共働を積み上げてゆくという話になるだろう。だが、次のように考えてみることもできるだろう。すなわち、個々の関係形成の途上で、「共働実践をしている感覚へと導く思索の媒介」があったのではないか、と。例えば、「媒介」となるような存在(リーダーシップや常連メンバーからの助言)や時間と機会(インフォーマルなレベルでのお悩み相談会、飲み会、反省会など)が重要であったのではないかと考えてみることもできる。要するに、コンフリクトの発生から発展的解消及び共働実践の知覚化へと至る円環的な仕組みがあるのかどうか。共働実践の構築をインキュベートしてゆくような組織デザインの議論が発展的にできないかなと考えました。 また、関連しつつ話は変わりますが(当日の質疑の際にもあった論点かとは思います)、やはり、コンフリクトが関係の決裂という現象も生む以上、価値観の合わない人たちが辞めてゆくという現象はあるかと。ここで重要なのは、辞めていった人に対しても、他の場所で「やりやすい(承認される)」場所/事業所が確保できているかどうかだと思う。すなわち、どこにいっても同じ価値観で「包摂」される事業所が用意されているのではなく、どこかにいけば異なる価値観によって「包摂」可能な事業所が確保できているかどうか、言い換えると、居場所の多元性=共働の多元性を(系列・グループで行動している団体の場合)確保できているどうかが重要だと思う。 (必ずしも上記の論点だけに回収されるものではないが)「共働」というテーマを考える上で、伊藤さんの報告はとても重要であり、興味深い示唆を与えてくれた報告であったと思う。