第114回研究会 終了のご報告と感想文掲載

社会的連帯経済推進フォーラム News

社会的企業研究会第114回研究会を開催いたしました。

タイトル:「社会的連帯経済における次世代の担い手育成」
日時:2022年3月10日(木)18:30~20:30
場所:zoom配信(参加無料)
報告者:田中夏子さん(元日本協同組合学会会長・長野高齢者生活協同組合理事長)
主な著書:『イタリア社会的経済の地域展開』(日本経済評論社)、『現場発スローな働き方と出会う』(岩波書店)等。

なお、この研究会は、科研費基盤研究B「社会的連帯経済の「連帯」を紡ぎ出すものは何か―コミュニティ開発の国際比較研究」(JSPS科研費JP18H00935、代表:藤井敦史)の調査研究報告の場として実施しました。

当日の感想文を、運営委員の久保ゆりえさんに書いていただきました。

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2022年3月10日(18時半~20時半)の研究会には、約40名が参加し、「社会的連帯経済における次世代の担い手育成」をテーマに、田中夏子さんから話題提供を受けて議論をしました。参加者からは、実践の現場で「学びや成長の手ごたえを実感したとき」の経験が共有されたり、また、大学・大学院といった教育現場での取り組み、そして“人はどのようにして育つのか”ということまで、幅広く意見を出し合いました。

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田中さんのご報告では、「次世代を育成する」という考え方から、「多世代で学び合う」という考え方への転換が強調されていました。学び合いや育ち合いのために重要なのは、組織の中に“既存の学び”を塗り替える、あるいは、ボトムアップ的な学びの回路をつくり出すような文化をどうつくるかであるということです。

トップダウンの“既存の学び”の例としては、大学のカリキュラムや協同組合を含む事業体の教育研修制度があります。田中さんは、こうした学びの場にも教員や経営陣の喧々諤々の議論を通じて、学ぶ主体になる人々や社会のニーズに沿ったメニューも組み込まれていることを明らかにしています。

他方で、学校教育の学びを塗り替える実践として東京・新宿区にある雫穿大学が紹介されました。何を、どのくらい時間をかけて、どのように学ぶかという意思決定には、学ぶ者とスタッフが一人一票の決定権をもって参加するというデモクラティックな学校です。また、1970~90年代にかけて事業・組織の成長とともに企業化していったと言われる協同組合においても、農協職員労組などによる調査学習活動を通じて職員同士が“話し合い”、また、農家の声を“聴き”そして“話し合う”ことを取り戻す経験がありました。

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私にとって田中さんのご報告で最も印象的だったのは、ICA(国際協同組合同盟)の協同組合原則をどう“読み替える”か、という問題提起です。原則が数回の改定にもかかわらず常に重視してきたものの一つに「教育」があります。田中さんは、教育が重視されるのは、協同組合は「一般的な社会で常識とされることとは異なる考え方、仕組みで動くから」であり、既存の社会とは異なる価値観や行動規範を築くために重視されるのだとしています。他方で、原則を理解する助けとなるガイダンスノートに書かれていることは参考にしつつも “自分たちの日々の活動に置き換えながら、自分たちにとってしっくりくるかたちで”読み替えていく必要があるのです。

この“読み替える”という行為は、協同組合原則だけでなくSDGsなどもそうかもしれません。あるいは、組織内部の理念や制度一つひとつも、柔軟に“読み替え”を繰り返し、そして一人ひとりにとっての“しっくりくる”ものを話し合いで擦り合わせていく。ボトムアップの学びの回路をつくる文化を育てるには、これに尽きるのかもしれません。

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したがって、この読み替えと話し合いを長期にわたって継続的に実践している共育講座やよい仕事研究交流集会、そして非営利・協同組織における話し合いの場などは、実践家の方々にとっては当たり前かもしれませんが、これが既存の社会を常に問い直し続けるような文化を育てる手法の一つであることを、改めて確認することができました。

同時に、組織の成長や時代の変化に伴い、これまでと同じ手法が引き続き有効とは言い切れません。新しいメンバーや未来のメンバーも交えて、社会的連帯経済組織の既存のあり方を読み替え、話し合うような場づくりはいかにして可能なのか。それが、これからの実践・研究の課題として見えてきたと思います。

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