第97回社会的企業研究会

社会的連帯経済推進フォーラム News

日時:5月17日(木) 18時~20時

場所:明治大学駿河台キャンパス研究棟 第一会議室

テーマ:社会的インパクト評価を「評価」するー市民社会にとって必要な評価のあり方を求めて―

講師:津富宏さん(静岡県立大学教授・青少年就労支援ネットワーク静岡理事長)

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感想・コメント(東京CPB事務局長  坪井眞里)

私が活動するNPOバンクもその一環に入るようだが、「インパクト投資」という概念が近年着目され、とくに東日本大震災以降、社会課題を解決するためのさまざまな民間投資が立ち上がっている。2016年に成立した「休眠預金等活用法」で、資金投入による成果を可視化するための「社会的インパクト評価」について議論が進められているのはその延長線上にあるようだ。「社会的インパクト評価」のキーワードは「アウトカム」で「インプットが社会をどう変えたか」であり、数値化するのだそうだが、社会の変化とは何か、短期間に変化を認めることなどできるのか、数値に説得性はあるのだろうか、などわからないことが多い。

休眠預金の有効な活用にはもちろん期待したいが、派手なパフォーマンスで成果を体現できる団体のみが資金を獲得し、パフォーマンス力のない団体は獲得できないことになるのでは、と懸念する声も上がっている。だが、社会的企業の選別になりかねない「社会的インパクト評価」が、「休眠預金等活用法」基本方針の主流になりつつあるらしい。このままでいいのだろうかと、モヤモヤした思いを抱えながら、学習会「『社会的インパクト評価』を評価する」に参加した。

講師の津富宏教授の専門は犯罪学、評価研究、そして青少年の社会参加支援である。大学卒業後、少年院の教官をされた経験があり、現在は大学教授の傍ら(特非)青少年就労支援ネットワーク静岡の理事長を務めるなで、老若男女問わず引きこもりなどの社会参加活動に携わっておられる。

地域住民を巻き込んだ社会運動の実践者として、そして評価研究者としてのお話はたいへん歯切れよく、説得力のあるものだった。ポイントをあげて感想をのべたい。

①誰がなんのために票かをするのか・・・「社会的インパクト評価」は福祉国家の行き詰まりに対するアングロサクソン的回答である、とのこと。英国の社会的投資のステークホルダーは投資家であり、個人の労働市場における商品価値のみが重んじられている。一方、北欧における社会的投資のステークホルダーは当事者であり、背後に人間の社会権(人権)があるとのこと。重要な視点である。休眠預金基本方針へのパブコメに、「当事者の評価を尊重すべき」とNPOセクターから意見が出されていたことと重なるお話だ。何のために資金が導入されるのか、社会を変えるとはどのようなことかの議論がもっとされるべきではないだろうか。

②評価研究者として「社会的インパクト評価」は評価とはいえない・・・評価研究における「インパクト評価」というのは因果関係を適切に評価することだそうだ。しかし、「社会的インパクト評価」であげられている「ロジックモデル」は掛け算でいくらでも数字をあげられる。「セオリー・オブ・チェンジ」も同様で、これらは因果性を軽視し結果にのみ関心を持つ方法。評価の世界では最小値で評価することが常識であるにも関わらず、「社会的インパクト評価」は数字を積み上げるのだから評価とは言わない、と厳しい。専門知識の全くない私だが、そこまで言われると「社会的インパクト評価」に信頼をおくことは難しい。

③NPO経営者として「社会的インパクト評価」は副作用が大きすぎる・・・就労支援の世界では、既にある団体が対象者の選別を行い、うまくいきそうな人だけを選び効果を出すと公言しているそうだ。このような団体が「社会的インパクト評価」で休眠預金を取得するならば利益誘導ではないか、とのことで、私の懸念はすでに現実となっているらしい。「成果」を出す団体が地元の「非効率」な団体を駆逐してもよいのかとは、休眠預金の審議会委員の中からも、NPOセクターからも多く出されていた意見と重なる。その後、審議会で納得できる議論ができたのだろうか。

以上、とてもまとめきれないが、「社会的インパクト評価」に対する批判を、批評研究者と実践者の視点からお聞きできたのはありがたかった。

その後、小関隆志委員から「社会的価値の可視化、数値化は避けられない流れ。『社会的インパクト評価』の批判だけでなく対案を提示しなければ説得力がない。事業改善の目的で評価を導入うNPOもある。」藤井敦史委員、原田晃樹委員から「社会連帯経済にとっての妥当な評価とはなにか」「非営利組織の多面的価値を資金提供者側の価値に引きずられない方法はないのか、参加型の評価は。」などの問題提起があった。

津富教授は、地域をよくする評価とは、知のコモンズの構築に資すること(市民活動は問題を解決してあげるためにするのではなく、人として生きるための権利を保障するための活動であり、知の蓄積に貢献するためにある。)、ケアのコモンズの構築に資すること(小さなアクターを市民社会から退場させないこと)と述べられたが、もう少し具体的なお話を聞きたかった。今回は主に「休眠預金等活用法」に関連した議論となったが、今後、NPOなど社会的企業の存在意義を左右する大きなテーマだと思う。これを機に、社会的企業研究会として対案を提示できるといいな、と期待している。