第91回社会的企業研究会

2016年9月開催 GSEF(Global Social Economy Forum)報告会 &

2016年11月 生活困窮者自立支援全国交流会に向けたプレ報告会

日時:2016年10月28() 17:30~20:30

場所:明治大学駿河台グローバルフロント2階第4021会議室

『報告タイトル』:報告者

『GSEF2016(グローバル社会的経済フォーラム)

            と社会的連帯経済』

:丸山 茂樹さん (参加型システム研究所)

『GSEF2016モントリオール国際会議参加報告』

:柳沢 敏勝さん (明治大学 商学部教授)

『国際的な社会的連帯経済運動

   から見たGSEF2016の意義』

:田中 滋さん (アジア太平洋資料センター 事務局長)

『香港の社会的企業サミットとICSEA会議について』

:栗本 昭さん (法政大学・連帯社会インスティテュート 教授)

『「社会的困難にある人と、共に働く・共に生きる・地域をつくる」~生活困窮者自立支援制度施行から1年半を経過して~』

:田嶋 康利さん

(日本労働者協同組合(ワーカーズコープ) 連合会 事務局長)

 

感想 コメント(明治大学大学院 博士後期課程 熊倉ゆりえ)

%e5%85%a8%e4%bd%93%e5%86%99%e7%9c%9f2016-10-28-17-50-1691回社会的企業研究会は、2016102817:3020:30まで3時間かけて二部構成で開催し、参加者は40名を越える盛会となった。

第一部 社会的企業に関連する国際会議の参加報告

GSEF概要

 第一部では、去る9月にカナダ・モントリオールで開催されたGSEF: Global Social Economy Forumの参加報告として丸山茂樹会員(ソウル宣言の会)、柳沢敏勝会員(明治大学)、田中滋会員、さらに、同月に香港で開催されたICSEA: International Conference on Social Enterprise in Asia4回会議の参加報告として栗本昭会員(法政大学)を加え、計4名から報告がなされた。GSEFは、2013年に韓国・ソウルで立ち上げられた社会的連帯経済組織のグローバル・ネットワークである。自治体と社会的連帯経済組織との連携により、新自由主義へのオルタナティブな政策を提言することを目指すGSEFは、今回の大会でCITIES: Centre International de Transfert d’Innovaations et de connaissances en Economie Sociale et solidaireという組織の立ち上げを決定し、これにより実践的な情報交換と人材養成の推進を図る。

今大会における変化

%e3%82%b2%e3%83%ab%e3%81%95%e3%82%932016-10-28-18-13-10GSEF20132014年のソウル市(アジア)から今回のカナダ(北米)へと開催地を移したことで中南米やアフリカからの参加者も増え、優れた実践報告がいっそう充実した。これに関して田中会員が指摘したのは、今回の大会では実践報告がいかに優れているかよりも、その実践が地域の条例などの政策にいかにして影響力をもつことができるか、といった、より水準の高いプレゼンが求められていることである。前回大会までGSEFでは「社会的経済」というタームが主流であったが、今回からは「社会的連帯経済」が使われた。田中会員が総括するに、これはGSEFが社会的経済に類するより多様な活動にも目を向けるようになったことを意味しており、また、社会的経済セクターが民間営利セクターを侵食するような戦略の描き方ではなく、経済開発モデルとしての社会的連帯経済へと主眼を移したことの表れである。

GSEF参加にかかる課題

%e4%b8%b8%e5%b1%b1%e8%8c%82%e6%a8%b9%e3%81%95%e3%82%932016-10-28-17-47-41ところで丸山会員は、第一回大会で採択された「ソウル宣言」に賛同し、日本での認知を高めるために2013年に「ソウル宣言の会」発足に尽力された。会のメンバーとともに、GSEFへの日本からの参加者のオーガナイジングやプレ集会の開催など、精力的に活動されている。今回日本からの参加者は32名であった。

%e6%9f%b3%e6%b2%a2%e5%85%88%e7%94%9f2016-10-28-18-00-05柳沢会員は、日本からの参加にかかる課題を以下三点指摘した。第一に、自治体と社会的連帯経済との協働を推進するGSEFにあって、日本からは自治体関係者の参加がなかったことである。第二に、社会的連体経済の一部を占めるはずの協同組合が、例えばICA: International Co-operative Allianceとして積極的に関与していないことである。これに関し、次回2018年大会はスペイン・モンドラゴンで開催されることになっており、協同組合による積極的参加が期待されよう。第三に、「ソウル宣言の会」の事務局諸氏によるオーガナイジングに深謝しつつ、事務局の平均年齢が70歳を超えることについて、より若い年齢層の積極的関与が必要であることを提言した。

ICSEA参加報告

%e6%a0%97%e6%9c%ac%e5%85%88%e7%94%9f2016-10-28-18-30-12栗本会員が参加したICSEAは、EMES: l’EMergence des Entreprises Socialesの東アジア版研究ネットワークであり、2010年から中国や韓国の各都市で年1回のペースで開催されてきた。今回のテーマは、「アジアにおける社会的イノベーション」であった。協同組合や非営利組織を中心とするヨーロッパ型の社会的企業論よりはむしろ、民間企業のCSRなどを含め、アメリカ型の社会的起業家に関する議論が中心であった。次回2018年は、東京での開催が予定されている。栗本会員は、社会的企業に関する継続的な研究会を組織している我が研究会も、東京大会にむけて積極的な運営参加をするよう提言された。

 EMESCIRIECなど、社会的企業に関連する国際的な研究会議は多く存在している。しかしながら私見では、日本から参加するメンバーは重複していることが多く、一部の研究者に情報が集中してしまっているようである。筆者は、社会的企業研究会のみならず、日本に多く存在する協同組合や非営利組織のシンクタンクとの広い連携をもって、日本の社会的連帯経済研究を海外に発信する基盤整備をすることが必須であると考える。

 

第二部 111213日に川崎で開催される生活困窮者自立支援全国研究交流大会のプレ勉強会

生活困窮者自立支援制度施行から1年半

%e7%94%b0%e5%b6%8b%e3%81%95%e3%82%932016-10-28-19-18-39研究会の第二部では、生活困窮者自立支援の取り組みと課題に関し、日本労働者協同組合連合会(以下、日本労協連)事務局長の田嶋康利氏にご講演を頂いた。生活困窮者自立支援制度は、生活保護にいたることを防ぐための新たなセーフティネットとして、20154月に施行された。「社会的困難にある人と、共に働く・共に生きる・地域をつくる」という氏の講演タイトルからもうかがえるように、

 生活困窮の問題を抱えている人々に対する支援は、地域に安心して生きられるコミュニティをつくりだしていくことにつながる。制度施行を控えた201411月に、アドボカシー活動などを目的として関連する多様なアクターによって組織された「生活困窮者自立支援全国ネットワーク」は、田嶋氏も理事になっている。

 日本労協連は、戦後失業対策事業就労者や日雇労働者などの不安定就労者を組織し、「失業と貧乏をなくし、戦争に反対する」ことをミッションとしてきた全日本自由労働組合を母体として誕生し、約40年もの間活動してきた団体である。働く者による出資と一人一票のメンバーシップ制をとる労働者協同組合であるが、2000年前後からは介護事業や指定管理者制度などの公的なサービス供給に、2008年のリーマンショック後には、国の緊急雇用事業が実施された際の基金訓練や求職者支援訓練などを通じて、社会的困難をかかえる人々への就労支援に参入するようになった。

現場から見えてくる制度的課題

 生活困窮者自立支援事業として、例えば日本労協連加盟団体である「ワーカーズコープちば」では、千葉市からの委託として自立相談事業に取り組んでいる。「仕事がない」だけでなく、「今日、寝泊りする所がない」あるいは「寝泊りするためのお金がない」といったケースも多い。自立支援制度には住居確保給付金もあるが、受給要件は離職後2年以内など厳しく、実際に活用できるケースは少ない。そこで、ワーカーズコープちばでは、「自前の」事業としてアパートを借り上げ、住まい不安定の問題を抱える人々のシェアハウスにしている。共同生活を営むことで、家事や生活能力を確認する機会になるという。同時に、中間的就労を含め、各種就労支援事業にも取り組んでいる。

 中間的就労(就労訓練事業)は、事業者として認定を受けても事業者側にメリットが無く、取り組む事業者が少ない。最近は国も事業者に対し、生活困窮者一人受け入れると60万円が助成される制度を新設した。しかしながら、事業者があっても利用者が少ないというさらなる課題も存在する。この背景には、そもそも就労訓練を必要としている人々は事業所に通うための交通費すら持っていないという生活困窮の現実がある。現金給付を受けながら就労訓練を受けるという制度になっていないことが問題なのである。さらに、就労訓練を必要としている人々の中には、様々な理由でどうしても朝出勤できないという人もいる。中間的就労に取り組むためには、生活困窮者が抱える複合的な課題を理解しなければならない。

田嶋氏は、相談・住居支援・就労支援は連続的・一体的に行なわれるべきであると主張する。これは、各種支援制度が存在すればそれで問題が解決されるわけではなく、安心して住み・働き・社会的な生活を営むコミュニティが無ければ、制度の網目から落ちてしまう人々が多く存在することを意味している。生活困窮者自身に合う働き方・生活の仕方を肯定し、適切な生活の場を当事者と事業者がともにつくりあげていく…これが、事業者側の理論に基づく一般的雇用労働を前提とした就労訓練と、日本労協連による取り組みとを差別化している。

【参考URL

GSEF2016 http://www.gsef2016.org/?lang=en

CITIES http://www.cities-ess.org/

ソウル宣言の会 http://www.seoulsengen.jp/

ICSEA http://apss.polyu.edu.hk/events/2016-social-enterprise-summit-4th-international-conference-social-enterprise-asia

日本労働者協同組合連合会 http://www.roukyou.gr.jp/ 

生活困窮者自立支援全国ネットワーク http://www.life-poor-support-japan.net/