第88回社会的企業研究会

 

「カール・ポラニーの『人間の経済』

 :連帯経済思想の系譜」

日時:2016716() 15:00~17:00

場所:明治大学駿河台キャンパス研究棟2階第9会議室

報告者:中山 智香子さん

(東京外国語大学総合国際学研究院教授)

 

dsc00903_2感想 コメント
(立教大学教授
     藤井敦史)

                                       先週末の7月16日の総会記念研究会では、東京外大の中山智香子先生をお招きし、「カール・ポランニーの『人間の経済』:連帯経済の系譜」と題して御報告いただきました。50名もの参加者においで頂き、議論も盛り上がり、大盛況でした。二つの世界大戦を生き延びて、経済的自由主義とその反作用の二重運動がやがて社会システムを崩壊させ、ファシズムという破局に行き着いてしまうプロセスを凝視してきたポランニーは、今日においても、とてもアクチュアルな魅力のある思想家だと思います。また、その著書『大転換』では、救貧法論争におけるロバート・オーエンの主張(貧困は、社会的・文化的環境の悪化と結びついている)を重視しており、その辺りも、現代社会で社会的排除問題と対峙している我々にとって、とても共感できるところでしょう。そして、今回、中山先生のお話では

ポランニーの自由観についても議論が及びました。中山先生によれば、ポランニーは、人が他者との関係の中で責任を果たしていくことに「自由」を見出していました。つまり、「人の中に入っていき、そこで役割を果たすことで承認され、喜びを感じる」、そういった循環の中で人間は自由になるのだとポランニーは考えていたのです。したがって、互酬性の捉え方にしても、単純に、双方が利益を得てWin-Winになるということが考えられているのではなくて、むしろ贈与をしたら相手が喜んでくれ、そのことが嬉しいといった感覚があることを含んでいるのだということでした。このように、考えてみると、ポランニーという人が考えている自由は、キリスト教の隣人愛のような価値観とも密接につながっているのかもしれません。自分と一緒に同じ社会を構成している他者の幸福は、実際には、自分の幸福とも密接につながっているという感覚は、互酬性、そして連帯経済なるものを考えていく際の一つのエートスとなりうるものです。しかし、そうした感覚や想像力の基盤は、格差が拡大し、偏狭なナショナリズムが広がりつつある今日の日本社会では、かなり摩耗してきているように思われます。連帯経済を支える価値観をどのように日本社会で構築し拡げていくことができるのか、そういった問いを中山先生の報告から与えられたように感じました。